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【REPORT|令和6年3月7日開催】地域公共交通勉強会「村山」地域別部会ワークショップ

山形県の地域公共交通について、共通の課題(課題の明確化・地域公共交通等)を抱えている複数自治体が集まり、他地域の先進事例を学ぶ勉強会として開催してきた『地域公共交通勉強会』。今回は2023年度最終回、令和6年3月7日に開催された『地域公共交通勉強会「村山」地域別部会ワークショップ』をレポートします。

実施レポート

山形県地域公共交通活性化協議会
地域公共交通勉強会「村山」地域別部会ワークショップ

【開催日時】令和6年3月7日(木)9時30分~
【開催会場】
村山総合支庁講堂

【実施内容】ワークショップ
□コーディネーター|菅野 永さま(株式会社MAKOTO WILL 代表取締役)
〈グループA〉山形市担当者/上山市担当者/天童市担当者/中山町担当者
〈グループB〉山辺町担当者(2名)/寒河江市担当者/朝日町担当者/大江町担当者
〈グループC〉大石田町担当者/河北町担当者/村山市担当者/東根市担当者/尾花沢市担当者

【ワークショップの内容・流れ】
SWOT分析(個人ワーク)
SWOT分析では各自治体の「Strength|強み」「Weakness|弱み」「Opportunity|機会」「Threat|脅威」の現状について分析します。

❷統合セッション❸ワークシート共有(グループワーク)
個人ワークの「SWOT分析」結果をグループで共有するためにグループ内で発表をします。3グループが一斉に統合セッションとワークシートの共有を行いました。

❹共通テーマとネクストアクションの策定(グループワーク)
❷❸で各自治体の現状をグループ内で共有した上で、特に議論したい「共通テーマ」を決定。共通テーマを軸に課題解決のネクストアクションを導き出すために、グループ内でブレインストーミングを実施します。今回は最後に各グループの「共通テーマ」と「ネクストアクション」を発表することで、他のグループの議論も共有し合いました。

❺各グループの議論内容を全体共有
❹で議論した内容を各グループごとに発表してもらうことで、会場にいる全員で課題を共有し合う形で会は終了しました。

参加者は村山エリア13市町から集まった公共交通事業の担当者。議論の内容は「地域公共交通を取り巻く環境分析」と「課題解決に向けたアイデア出し」です。コーディネーターである株式会社MAKOTO WILL代表取締役・菅野さまの自己紹介とアイスブレイクを挟んで、地域の公共交通課題を分析するワークショップがスタートしました。


【実施内容】グループワーク|グループB
『SWOT分析の統合セッション』
山辺町担当者(2名)/寒河江市担当者/朝日町担当者/大江町担当者

各自治体の公共交通担当者が個人ワークで「SWOT分析」を実施。次にその内容をグループ内で共有するために、参加者ごとに内容を発表するワークショップが行われました。ここからは参加人数が最も多かったグループBの議論について詳しくレポートしていきます。

山辺町A

【強み】羽前山辺駅が建て替えにより新駅舎になることでちょっと話題性が生まれることと、新たな利用者が出てくる。人口減少幅は小さく、世帯数は増えています。タクシー会社が存在しておりますので、早急な移動手段の確保等にもすぐ対応できるような状態にあります。これは町内に高校がありますので、若者の駅需要が一定数あるという部分も強みです。

【弱み】人口の高齢化は今後も進むと考えられます。平野部と山間部で利便性の格差が生まれており、やはり山間部が避けられている印象があります。特に山間部は車がないと生活が厳しい状態です。

【機会】AI技術の発展による多様な業種での利用拡大が行われているということで、今後様々なAI導入が生まれてくるのではないか。カーシェアリング等のシェアリングサービスの更新等によって、車を保有していなくても移動手段を確保できる状態が生まれてきてるのではないか。

【脅威】少子高齢化による人手不足、要支援者の増加です。世界情勢等も含めて経済情勢が不安定なので、ちょっと経済的な見通しが立たない状況にあります。日本全体に関しては、外国人増加による国籍への対応が求められている状態なのかなと感じています。

大江町

【強み】鉄道·民間バス·デマンドタクシーなど、その他にも一般のタクシー会社が2社あるので、さまざまな交通手段を選択して移動できます。山形空港まで程よい距離なので、首都圏に向かう交通手段も選択できます。

【弱み】公共交通の選択手段が多いことは強みでありながら、利用者が分散してしまうことで赤字路線ができる一因になっています。赤字路線には公的資金が投入されるので、将来的に安定した持続可能な公共交通という意味では懸念が多いです。

【機会】ICT活用などの勉強会への参加です。近隣自治体との情報共有ができています。

【脅威】持続可能性といったところでは人口減少によって高齢化が進んでいる中で、公共交通の将来的な利用減というところも懸念されています。地域全体の人口減少によって、バスやタクシーなどの運転手の不足なども課題となっています。

朝日町

【強み】住民向けに公共交通についての課題や要望を聞くような場を設けています。

【弱み】鉄道もないので、他市町へのアクセスは不便です。朝日町が運行している山形市への直行バスがあるが、便数が少ないなど課題が多い。土日は運行していないので、観光客の方は利用しにくいです。

【機会】西村山地区でのワーキングチームで、先進地事例などの導入を検討しています。

【脅威】人口減少が進んでいて高齢化率が高いため、高齢者の免許返納が進まずに高齢者ドライバーが多いです。それに伴いデマンドタクシーの利用者もなかなか増えません。

寒河江市

【強み】公共交通の強みとしては、バス路線が国道や高速道路インター、ジャンクションなどアクセスしやすい場所に立地しています。山交バスさんはじめ寒河江駅まで路線バスが来ているので、交通手段も結構あります。市民に対しては市内循環バス、あと空白地帯にはデマンドタクシーも走られてます。市内全土で公共交通を利用できる環境であることは強みです。

【弱み】アクセスしやすい立地である反面通過点にもなりがちで、観光客など長時間の滞在があまり見込めないです。タクシー会社が2社あるが、どちらも人手不足が差し迫っています。市が運行している循環バスやデマンドタクシーについても、人材不足により更なるサービスの向上が難しいです。民間タクシーサービスについても、人手不足の影響で夜間の待ち時間が伸びています。

【機会】寒河江市を目的地としてくる人だけではなく、近隣市町を目的に移動している方々が途中立ち寄りやすい立地です。そういう方々を囲いやすい環境です。

【脅威】一部路線の利用者がかなり減っていることで、国の再構築協議会の対象になり得ます。ただ、住民ニーズを考慮するとどうにか存続させなければいけないです。他に山交路線バスが土日運休であること、タクシーやバスの運転手不足も脅威になっています。

山辺町B

【強み】JR左沢線が走っていて寒河江市、大江町、山形市方面への通勤通学に利用できます。タクシー事業者もあるので、急な外出需要にも対応できます。コミュニティーバスは温泉を発着地にしているので、レジャーにも利用できます。山間部はデマンドバスが走っているため「ドアツードア」の移動ができます。

【弱み】人口減少高齢化。高齢者の免許保有者が多いので、町営バスの利用者は少ないです。町営バスは町外への運行は行っておらず、日祝は運休。町営バスの収益に対する財政負担が多くなっています。

【機会】現在デマンドバスは電話予約のみだが、予約方法の多様化やキャッシュレス決済の普及など、支払いの簡略化は利用者拡大につながります。バスの位置情報サービスの導入なども機会につながります。

【脅威】燃料費の高騰、車両耐用年数、災害時の運行など脅威になる要素は多いです。民間輸送サービス、配送サービスなどのアプリの拡充が、ある意味公共交通から見ると競合になり得ます。


【実施内容】グループワーク
『共通テーマとネクストアクションの策定』

探索型の課題抽出とバックキャストによるブレインストーミング
グループセッションで各自治体の現状分析を共有したあと、コーディネーターの菅野さまのファシリテーションにより「特に議論したい共通テーマ」を選定。最後にその課題を解決していくための「ネクストアクション」を策定するために、参加者全員でブレインストーミングを行いました。

【コメンテーター|菅野さま】
ここからグループ討論に入ります。これまでのSWOT分析や共有時間で、それぞれの自治体共通課題が出て来たかと思いますが「議論テーマ」をうまく選びとっていただきたいです。その後にネクストアクションを議論してもらいます。さっきお伝えした理想と現状のギャップから課題を抽出するのが難しいとすれば、将来的に重要な課題になってくるであろう問題をうまくピックアップできないかなと思ってます。

その際にぜひ「バックキャスト」で考えてみてください。まずは未来の理想像をイメージして、そこから逆算して今何をすべきかを考えていくという。あと1人でできないことをチームで解決していく、ということも大切です。自分の自治体だけの課題ではないので、例えば広域連携で解決できそうとか。そういうことも考えてみてください。


【実施内容】共通テーマ策定|グループB
共通テーマ『公共交通はなぜ使われないのか?』
山辺町担当者(2名)/寒河江市担当者/朝日町担当者/大江町担当者

【自治体A
多分共通一番共通して多かった課題が、利用者の減少なのかなって感じなので、利用者を増やすためにはどのような施策をすればいいかっていうテーマもありかなと思ってます。

【自治体B
何の利用者を増やすか、どうするか決めましょうか。寒河江市は左沢線の利用者減少が大きな課題。朝日町等はコミュニティーバスの利用者の減少課題。どこに絞りましょうか?

【自治体C
「地域コミュニティー内の交通網を広げていく」というよりも、広域的に利用者を増やしていくという視点もありますね。

【自治体D
「バスの利用者を増やすためにはどこをターゲットにした施策がいいのか」。そこまで絞れたらいいですね。「デマンドバスなどの公共交通の利用者増加施策」にテーマを絞っていこうかと。

【コーディネーター|菅野さま】
なんで利用者数が少ないかというと、そもそもニーズがないからじゃないでしょうか。その状況でどう利用者を増やそうかを議論するよりも、どうして利用者が少ないのかを話し合った方が面白いかもしれませんね。

【自治体A

「なぜ公共交通は使われないのか?」これで行きましょう。

【コーディネーター|菅野さま】

例えば公共交通がなぜ使われないのか?と考えたときに、そもそも「公共交通のことやその利便性が知られていない」っていう可能性が出てきませんか?それなら「知ってもらうためにはどうすればいいか」というテーマ設定もできますね。


【実施内容】ネクストアクションの議論|グループB
『バックキャスト思考で今できることを』
山辺町担当者(2名)/寒河江市担当者/朝日町担当者/大江町担当者

【コーディネーター|菅野さま】
これから決まったテーマに沿ってネクストアクションを議論してもらいます。今日は無理に解決策とネクストアクションに落とし込まなくても大丈夫です。むしろ課題に対して本音で意見交換していただければ、明日につながっていくと思うので。あと、自治体単体で物事を考えないで広域連携できないかとか、民間団体と連携すればこんなことができるんじゃないか、と言う発想をぜひ取り入れていただきたいなと思ってます。

公共交通には移動手段+αの付加価値が必要では
【自治体A
「実際にバスの利用頻度が多くなると割引を受けられる」みないな施策も面白いかも。ただ、それでも僕はまだ車に乗れるから大丈夫って言う人が出てくる可能性はあるし、そういう方まですくい上げられないのが公共交通ですよね。やっぱり付加価値をつけないと厳しいのかなって気はしますよね。

【自治体B
そうしたインセンティブが何かないと「お願いします!使ってください」では使わないですよね。

【自治体C
バスの定期を購入すると、結構地域ポイントがつくらしいですよ。

【自治体A
例えばタクシーとかは、自分がアルコールを飲んでしまった時でも移動手段として使えるとか。メリットをちゃんと伝えることも必要ですよね。

【自治体B
公共交通が娯楽の一つとして使えればという発想は、利用者の増加につながるかもしれません。普段乗らない人も乗るかもしれないし、地域住民の方々にも公共交通って移動手段だけじゃないプラスアルファがあるんだよって。

【自治体C
空いてるのであれば共有スペースとして使えるみたいな事業があれば面白い。寒河江市とかは会議や宴会利用のお客様を貸切電車に乗せたりとか。ああいう取り組みも付加価値ありますよね。

【自治体A
交通手段以外の使い方も提案できると、利用者が増えてくるのかもしれませんね。ただ一過性の企画だと後につながらないので。

【自治体C
イベント会場的な使い方としてはアリなのかなと思います。まずはファーストコンタクトとして。「貸切ツアーの特別列車」がネクストアクションでもいいかもしれませんね。

【自治体A
さっきお話に出た「免許返納者への特典配布」と「年1回の無料乗車券配布」もネクストアクションになりますね。ちなみにバスの周知についてですが、去年実施した親子向けの「バス乗り方教室」なんかは割と効果あったのかもしれないです。小さいお子さんにもバスってもらって、どういうものか知ってもらう機会にはなったかなという気はします。親も一緒に公共交通の利便性に気づいてもらえたと思います。


【実施内容】全体発表
『各グループの議論内容を全体で共有』

視点が異なる3グループのネクストアクション
今回は参加自治体数とグループが多かったため、コーディネーターである菅野さまのファシリテーションのもと、各グループで議論した「共通テーマ」と「ネクストアクション」を発表し合いました。

グループA共通テーマ「今後の公共交通をどう考えていくか」
ネクストアクション「住民ニーズの把握・事業者との協力体制」

解決策としては「タクシー」がキーワードになるのではないか。相乗りタクシーですとか工夫は必要ですが。利用者に対する補助制度や支援は必要ない。運転手不足も想定されますので、その場合は有償運送などのボランティア団体の活用など、自治体が補助をしながら検討しなければいけない。来年度から実証実験が行われる「ライドシェア」も大きなキーワードかなと思ってます。

まずはタクシーについて、地域住民の方々のニーズを把握しなければいけない。例えば予約が面倒だから定期の待ち合わせ運行の方がいいという声があるかもしれません。あとは事業者との協力体制。そもそも協力してくれる事業者さんの儲けにつながらなければ存続できない。収益化のスキーム構築も必要なんじゃないか、というような話になりました。   


 

グループB共通テーマ「公共交通はなぜ使われないのか?」
ネクストアクション「移動手段+αの付加価値と周知」

やはり公共交通は時間に縛られる自家用車の方が利便性が高いということ。公共交通は乗り継げばどこまでも行けるんですけど、どうしても乗り換え乗り継ぎの時間だったりが合わなくて、空白の時間ができてしまうこと。公共交通をそもそも使い慣れていないので、使うという発想に至っていない。2次交通の確保ができていない。

公共交通をレジャー感覚で利用できれば利用者が増える可能性はある。バス、電車好きの人は特に理由もなく乗ってくれる。そういった方も要素としては研究しがいがあるのかなと感じてます。例えば年1回無料で乗ってもらうこと、返納者の特典、あとデマンドプロレスやイベント等を行うことでの活性化貸切でのツアー利用。あとは親子向けの「バスの乗り方教室」なんかは、そのパスについて知ってもらう上ではすごく効果があったのかなと感じます。


 

グループC共通テーマ「公共交通を維持するための委託事業者との関係性」
ネクストアクション「外部専門家による委託事業者の経営分析」

委託経費ですとかあとは事業者から突き上げがあったりとか、公共交通の事業者さんと行政の他の分野とでは、付き合い方がちょっと違うかなというところがある。そこが人件費ですとか、燃料費とか、果たしてどれくらいが適切なのかというところがなかなか見えにくい分野なのかなというところが課題。事業者さんがどの程度体力があるのかがなかなか把握しきれないというところが、そういった突き上げが生まれてきてそれにうまく対応できないという要因なのかなという。実際に事業者様の課題把握にこちら側が積極的に関与していくようなことができれば、解決に繋がっていくのではないかという意見もありました。

ネクストアクションとしてはその経営状況について、外部の専門機関コンサルですとか、あとは機関とかに分析を依頼できるような仕組みができれば、事業者さんとのより良い関係存続の解決策に繋がっていくのではないかというところです。



最後に「
山形県地域公共交通活性化協議会」の県担当者さまに、村山エリアのワークショップ全体についてコメントをいただきました。

COMMENTATOR山形県地域公共交通活性化協議会|県担当者さまのコメント
地形とか人口とかあと面積だったり産業であったり、いろんな要素が絡まり合ってなかなか理想的な公共交通のビジョンを描けないというのが、各自治体の課題だと思います。今日皆さんで一堂に集まってインタラクティブなやり取りをできたっていうことはすごく良かったなと思っています。ともすれば行政は全国の先進事例を真似しがちなんですけど、今回は自分たちの考えを推し進めて深める時間が取れたので、非常に価値のある時間だったと思います。