地域課題の解決を専門家とのマッチングや支援事業でサポート produced by 公益財団法人東北活性化研究センター

【REPORT|令和6年2月29日開催】地域公共交通勉強会「最上」地域別部会ワークショップ

山形県の地域公共交通について、共通の課題(課題の明確化・地域公共交通等)を抱えている複数自治体が集まり、他地域の先進事例を学ぶ勉強会として開催してきた『地域公共交通勉強会』。今回は今回は令和6年2月29日に開催された、地域公共交通勉強会「最上」地域別部会ワークショップをレポートします。

実施レポート

山形県地域公共交通活性化協議会
地域公共交通勉強会「最上」地域別部会ワークショップ

【開催日時】令和6年2月29日(木)13時30分~
【開催会場】最上
総合支庁講堂

【実施内容】ワークショップ
コーディネーター|菅野 永さま(株式会社MAKOTO WILL 代表取締役)
〈グループA〉新庄市担当者/金山町担当者/舟形町担当者/鮭川村担当者/大蔵村担当者
〈グループB〉金山町担当者/最上町担当者/戸沢村担当者/真室川町担当者

【ワークショップの内容・流れ】
❶SWOT分析(個人ワーク)
SWOT分析では各自治体の「Strength|強み」「Weakness|弱み」「Opportunity|機会」「Threat|脅威」の現状について分析します。

❷統合セッション❸ワークシート共有(グループワーク)
個人ワークで分析した「SWOT分析」をグループで共有するために発表をします。

❹共通テーマとネクストアクションの策定(グループワーク)
❷❸で各自治体の現状をグループ内で共有した上で、特に議論したい「共通テーマ」を決定。共通テーマを軸に課題解決のネクストアクションを導き出すために、グループ内でブレインストーミングを実施します。

今回は最上エリア8つの自治体の公共交通の担当職員が2つのグループに分かれて「地域公共交通を取り巻く環境分析」と「課題解決に向けたアイデア出し」を行いました。コーディネーターである株式会社MAKOTO WILL代表取締役の菅野さまの自己紹介とアイスブレイクを挟んで、まずは公共交通課題を分析するワークショップから始まりました。


 

【実施内容】個人ワーク
『SWOT分析で公共交通の現状を把握する』

【コーディネーター|菅野さま】
そもそも我々が向かっていこうとしているのは、この先このフィールドってどういう環境なんだっけ。そして自分たちって周りと比べたときに、何が強みで何か弱みになるかっていうのをちゃんと把握して、戦略とか戦術をより精度の高いものにするためにSWOT分析を活用します。各自治体の公共交通をテーマとして考えてみてください。


【実施内容】グループワーク|グループA
『SWOT分析の統合セッション』
新庄市担当者/金山町担当者/舟形町担当者/鮭川村担当者/大蔵村担当者

各自治体の公共交通担当者が個人ワークで「SWOT分析」を実施。次にその内容をグループ内で共有するために、参加者ごとに内容を発表するワークショップが行われました。ここからは特にグループAの議論について詳しくレポートしていきます。

鮭川村

【強み】山形新幹線の終着駅であるJR新庄駅から、観光地である羽根沢温泉に直接行ける路線があることです。「公共交通は住民の足」という考え方が強いために料金設定も低く、片道200円で路線バスに乗ることができます。70歳以上の方、障害者手帳を持っている方は半額の片道100円で路線バスに乗れます。

【弱み】新幹線に合わせたダイヤにしているため、在来線への乗り継ぎについては要望が多いです。財政は完全に赤字経営。住民のためとはいえ、どこまで税金を投入するのかという部分は個人的に疑問を持っています。

【機会】自動運転技術など、国の方からも交付金の活用ということで周知あったと思いますが、交付金を有効活用することで行政の委託料を減らすことができるのではないかと思います。ただ人口の少ない自治体ということで、最新技術を取り入れたとしても効果が出せるかはなかなか難しいと思ってます。

【脅威】どこの自治体も同じ課題かと思いますが、人口が減り続けていることです。ほぼ利用客が乗らない路線もあって、デマンドへの切り替えも必要かなと感じている。委託業者も乗務員の人員確保に苦慮しているため、これ以上便を増やすことが難しいです。

舟形町

【強み】デマンド型乗合タクシーを運行しています。区域運行で時間は決まっていますが、町内全域に向けた「町内便」と、県立病院まで行ける「町外便」を運行して利便性を確保しています。自治体の面積が小さいために、公共交通網を整備しやすいというのが強み。新庄市が近いので買い物や病院などが比較的近いところにあるので、10分~15分でアクセスできます。

【弱み】弱みとしては運行事業者の高齢化です。町内にひとつあるタクシー事業者にデマンド型乗合タクシーを運行してもらっているが、ドライバーが高齢なので安全面に不安があります。財政面でも不安な部分があって、タクシー運行事業者補助金が年々増加していて、大体予算規模が1,000万円位になっています。課題を整理しきれていないのに、新しい予約システムが導入されることになっています。

【機会】ライドシェアの動向に期待しています。外国人技能実習生が運送分野でも働けるようになるということです。

【脅威】道路運送法の手続きが面倒です。さらに2次輸送の問題もあります。さらにシステム化に伴ってシステム変更にかかる委託料が高額なので、運行形態をすぐに改善できないです。人口減少で利用者が減り、運行事業者の労働力確保も難しくなる未来が見えています。

金山町

【強み】昨年度からデマンドタクシーの運行を開始しました。送迎ポイントが決まっているわけではなく「ドアツードア」で好きな場所から好きな場所まで送迎する、という方向で運行中です。町内移動前提だがとても好評をいただいています。観光資源が街の中心部に集約されているので、徒歩や自転車でも周遊可能です。レンタサイクルのサービスもあります。

【弱み】弱みとしては大型スーパーや薬局がないでの買い物場所は、町外の新庄市が中心になっています。高齢化が進んでいるために、免許返納者や独居老人が多いです。

【機会】東北中央自動車道がようやく金山町まで開通します。次年度には町内全世帯向けにタブレット端末の配布を予定しています。現在デマンドタクシーの受付は人力ですが、タブレット端末を使ってデマンドタクシーを活用するなど、仕組みの効率化をしていきたいです。

【脅威】人口減や高齢化の進行と公共交通利用者の減少です。これに合わせて運賃の値上げや減便が発生しています。

新庄市

【強み】全国的に比べれば災害も少ないです。新庄駅と県立新庄病院が拠点施設になっていて、公共交通関係は全ての郡部から集まります。乗合バス・貸切バス・タクシー事業者と豊富な公共交通業者があります。地理的に交通の要所ということで国道・鉄道全て東西南北に行けます。新庄まつりという観光資源も強みです。4月に専門職大学が開校することで、山交バスの路線も延伸してもらえました。大学の開講に伴って若者が増えています。

【弱み】少子高齢化が著しく危機的な状態です。コンパクトシティ化できていないので、公共交通の空白地があります。そこをデマンド交通で埋めていく計画でしたがうまくいっていません。新庄市中心部の空洞化も進んでいます。公共施設が多すぎて、そのランニングコストが急上昇しています。特別豪雪地帯であるため、ダイヤの乱れは免れることができません。

【機会】「新庄市立地適正化計画」を策定予定で、コンパクトシティのまち作りに取り組んでいます。キャッシュレス決済の導入計画も進んでいます。

【脅威】公共交通の運転手不足と、局地的な豪雨による道路の寸断などです。

大蔵村

【強み】定時の路線バスだけだが、スクールバスも含めて大体村内はカバーできています。肘折温泉の宿泊客が多いので、路線バスは土日も運行しています。

【弱み】路線バス以外の公共交通手段が一切ないです。鉄道・民間バス事業者・タクシー事業者もないです。村内で連携できる事業者が不足しています。人口減少によって、自治体の自主財源が非常に少なくなっています。通学・通院・買い物全てにおいて村内での完結は難しく、新庄市中心になっています。路線バスについては住民と観光客のニーズの違いも悩みです。

【機会】地域マネーによるキャッシュレス決済を進めています。バスの空き時間を利用してオンデマンドバスの実証実験を計画中です。

【脅威】人口減少で子供の減少が激しいです。学校が生徒を送迎しているので通学の高校生の公共交通利用が減っています。物価高騰・燃料高騰によって財政的にも難しくなっています。

 


【実施内容】グループワーク
『共通テーマとネクストアクションの策定』

探索型の課題抽出とバックキャストによるブレインストーミング
グループワークで各自治体の現状分析を共有したあと、コーディネーター菅野さまのファシリテーションにより「特に議論したい共通テーマ」を選定。最後にその課題を解決していくための「ネクストアクション」を策定するために、参加者全員でブレインストーミングを行いました。

【コメンテーター|菅野さま】
ここからグループ討論に入ります。各グループ討議の具体的な進め方なんですが、まず議論テーマの検討の時間を設けます。今の時間でSWOT分析の内容をグループ内で共有して、共通の課題も見えてきたと思います。できれば皆さんの自治体に共通する課題を、グループごとにひとつ設定してください。

グループ討論のポイントが2つあります。ひとつ目が皆さんが自治体単独だと対応に苦慮しているので他地域の事例が知りたいとか、あとは自治体単体だと解決が難しいので広域連携をしたいと考えること。もうひとつが「探索型の課題」という考え方で、住民ニーズやクレームのように認知できる問題とは違って、表面に現れていない潜在的な問題を探すことです。まずは理想の形を思い浮かべて、そことのギャップを課題と捉えることで「探索型の課題」を抽出することができます。今日は各自治体の担当者が直接顔を合わせて話せる貴重な場なので、どんどん議論してみてください。


【実施内容】共通テーマ策定|グループA
共通テーマ市町村毎の交通モードの接続性改善(広域連携)
新庄市担当者/金山町担当者/舟形町担当者/鮭川村担当者/大蔵村担当者

公共交通をより良く住人に利用していただくために

【自治体A
さっきの話を聞いてて思ったのは、生活の拠点は新庄市なのかなと。

【自治体B
各市町村でいろいろな公共交通事業をやっていて、でも最終的に買い物・通学・通院は新庄に行かなければというところであれば「接続性」もテーマになってきますね。実際ダイレクトに利用者に影響が及ぶので、最上8市町村としては大きな共通課題なのかもしれません。

【自治体C
確かにこの最上エリアの中で、町内村内で生活基盤が完結できる自治体があるかと言ったらないので。

【自治体D
少子高齢化で圧倒的に免許返納者の数が増えると思うんですよね。公共交通の利用者はもしかしたら減るかもしれないんですけど、割合的に高齢化によって免許返納が進めば足の確保が課題になってきます。「接続性」という部分では市町村連携していかないといけないですよね。

 


【実施内容】ネクストアクションの議論|グループA
理想の接続性のために広域連携できること
新庄市担当者/金山町担当者/舟形町担当者/鮭川村担当者/大蔵村担当者

【コーディネーター|菅野さま】
両グループとも討議テーマの課題テーマが決まりましたので、次の議論が山場になります。いま設定いただいた課題に対する解決策と、明日から何ができるかというネクストアクションの議論をしていきます。議論する際に「バックキャスト」という考え方を意識していただきたいです。ありたい理想の姿を描いて、そこから逆算して今何ができるのかを考えることを意識して議論をしていただければ幸いです。では最後の解決策とネクストアクションの議論に移りたいと思います。

住民目線で考えるか、観光客目線で考えるか

【自治体A
ひとつの理想としては循環バスをもう1便増やせれば、いろんな接続も楽になるんですけど。

【自治体C
羽根沢温泉と新庄の接続時間って1〜2時間とかもあったんですよね?

【自治体B
全部の便がそういうわけではなくて、乗り継ぎまで30分ぐらいの便もあるんですよ。どうしても噛み合わない。全ての便を合わせるのは無理で、必要最低限合わせることを考えることはできるかも。

【自治体D
接続って何分くらいだと満足なんでしょう?

【自治体C
近すぎても困るし地域性も関係するから正解はないですよね。

【自治体A
ちなみに鉄道とバスの接続はそんなにズレないんですけど、バスとバスの接続は雪が降ると遅延が発生するので難しいですよね。ダイヤはあってるけど、接続がうまくいかないケースも発生しそう。理想としては、新庄市に入ってる停留所のバスが全部が来たときに、循環線が来て乗れるみたいなのがいいんですけど

【自治体D
住民目線で考えるのか、観光客目線で考えるのかという話になってきそうですね。

【自治体C
天気の影響を受けやすい地域は、本当は別ダイヤを設けたほうがいいんですけどね。本当はグリーンシーズンと冬のシーズンを分けた方がいいんですけど…。

【自治体B
同じ路線でふたつのダイヤを作るのはリスクが大きいと思います。悪天時などのバスの遅延については、最近バスロケーションシステムを導入したことで苦情がだいぶ減りました。

【自治体A
例えば住民の要望としては、病院だけじゃなくて買い物もしてみたいというようなものが届いてますね。病院が終わったら循環線でちょっと回って買い物して、また循環線に乗って県病院に行って帰るみたいな。観光客のニーズとは全く違うんですよね。

【自治体B
国で推奨してるのは「ハブアンドスポーク」と言って、拠点施設を設けてこっちに行くときは必ず乗り継ぎして行きましょう、っていうのは理想としてはあるんですけど。これ新庄の人にはなかなか受け入れられなくて、皆さんドアツードアでそのまま直接行きたいんで。

【自治体C】
ダイヤの話なんですけど、住民の生活リズムをベースにダイヤを合わせるのは難しいですよね。公共交通は必要最低限であってある程度制約もあるということを、住民に理解してもらう必要もあると思います。


【実施内容】全体発表
『各グループの議論内容を全体で共有』

2つのグループの共通課題とネクストアクションのまとめ
コーディネーターである菅野さまのファシリテーションのもと、各グループで議論した「共通テーマ」と「ネクストアクション」を発表し合いました。

グループA共通テーマ「市町村毎の交通モードの接続性改善」
ネクストアクション「まずは新庄の拠点施設や病院などの乗り継ぎ改善を」

共通課題は「市町村毎の交通モードの接続性を改善する必要性」についてでした。現状では全てのアンダーパス停留所での乗り継ぎを実現するのは、運転手不足問題もある中でとても厳しい。せめて拠点施設新庄駅や県立新庄病院の拠点施設での乗り継ぎの改善は、試みる価値があるんじゃないか。

まずは市営市内を走っている循環線を現行の1台から2台運行に変更する。それによりダイヤに幅がでて、他の路線との乗り継ぎが改善されるのではないか。

あとは、公共交通バスのコアユーザーである高齢者の活動メインは午前中。例えば「午前中に病院や買い物に行ってお昼までに帰れる」ような乗り継ぎを実現するために、自治体同士で意見交換を続けていこうという話し合いになりました。


グループB共通テーマ「公共交通における担い手不足・運転手の確保」
ネクストアクション「2種免許を持っている運転手の広域シェア」

どこの市町村も高齢化が進んでいるため、そもそも運転手の母数が少ない。そこで募集しても人材の取り合いになったりしてしまう。また公共交通の運転手という仕事に魅力が感じられないために、募集しても人材が集まらない可能性がある。

その解決のビジョンですが、例えば運転手に必要な2種免許を取得するには費用がかかる。その費用を負担する政策もあって良いと思う。あとは業務環境の改善、賃金の改善など。公共交通の運転手の処遇が改善されていることを、しっかり情報発信していく必要もあります。

あとは例えばタクシー業者さん、バス運行業者さん、自動車教習所の先生等も2種免許を持っています。そういった方々を登録制にして必要な時に自治体に派遣するサービス「公的なライドシェア」の手法が実現できれば、2種免許をすでに持っている人材を効率的に活かせるんじゃないかというアイデアも出ました。


 

コーディネーターの菅野さまがグループAとグループBの共通テーマや、ネクストアクションについて解説したところで勉強会は終了。今回は勉強会にオブザーバーとして参加し、グループセッションも見学していた「山交バス株式会社」の担当者さまに、最上エリアのワークショップ全体についてコメントをいただきました。

COMMENTATOR山交バス株式会社|担当者さま
やはり市町村さんの今回の悩みと課題を聞いて、突き詰めていくと、山交バスの課題にも通じるというか、同じ悩みということがわかりました。当社も自分の会社の課題で自分の会社で解決しようと社員同士で思うんですけれども、自治体と民間業者の垣根を超えて課題を共有できれば解決策を探っていけるかもしれません。自治体さんは収益ではなく、やっぱり地域住民の足を一番に考えてらっしゃる。当社は民間業者なので、費用対効果や収益率をしっかりみなければいけない。ただ同じ公共交通を維持していくっていう目的としては一緒なので、自治体の方々や住民の方ともいい関係の公共交通であり続けたいなと思いました。