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【REPORT|令和6年2月28日開催】地域公共交通勉強会「置賜」地域別部会ワークショップ

山形県の地域公共交通について、共通の課題(課題の明確化・地域公共交通等)を抱えている複数自治体が集まり、他地域の先進事例を学ぶ勉強会として開催してきた『地域公共交通勉強会』。今回は令和6年2月28日に開催された『地域公共交通勉強会「置賜」地域別部会ワークショップをレポートします。

実施レポート

山形県地域公共交通活性化協議会
地域公共交通勉強会「置賜」地域別部会ワークショップ

【開催日時】令和6年2月28日(水)13時30分~
【開催会場】
置賜総合支庁講堂

【実施内容】ワークショップ
コーディネーター|菅野 永さま(株式会社MAKOTO WILL 代表取締役)
〈グループA〉長井市担当者/小国町担当者/飯豊町担当者/白鷹町担当者
〈グループB〉米沢市担当者(2名)/南陽市担当者/高畠町担当者/川西町担当者

【ワークショップの内容・流れ】
❶SWOT分析(個人ワーク)
SWOT分析では各自治体の「Strength|強み」「Weakness|弱み」「Opportunity|機会」「Threat|脅威」の現状について分析します。

❷統合セッション❸ワークシート共有(グループワーク)
個人ワークで分析した「SWOT分析」をグループで共有するために発表をします。

❹共通テーマとネクストアクションの策定(グループワーク)
❷❸で各自治体の現状をグループ内で共有した上で、特に議論したい「共通テーマ」を決定。共通テーマを軸に課題解決のネクストアクションを導き出すために、グループ内でブレインストーミングを実施します。

参加者は置賜エリア8つの自治体の公共交通事業担当者。議論内容は「地域公共交通を取り巻く環境分析」と「課題解決に向けたアイデア出し」。最初にコーディネーターである株式会社MAKOTO WILL代表取締役・菅野さまの自己紹介とそれぞれの自己紹介などのアイスブレイクを挟んでから、地域の公共交通課題を分析するワークショップに移りました。

【実施内容】個人ワーク
『SWOT分析で公共交通の現状を把握する』

【コーディネーター|菅野さま】
皆さんは普段の業務環境から離れて、異なる自治体の担当者と同じテーブルに座っていただいてます。地域公共交通は非常に難しい課題を抱えてますが、自分の地域だけで取り組んでるとどうしても視野が狭くなったりしがちだと思います。この地域社会全体を俯瞰することがひとつ大きなキーワードになります。それぞれの地域課題を共有することで、様々な気づきや学びを得ていただければ幸いです。

SWOT分析はこれからビジネスの経営戦略とか方針を考えていくときに、このフィールドってどういう環境なんだっけ、そして自分たちって周りと比べたときに、何が強みで何か弱みになるかをちゃんと把握して、戦略とか戦術をより精度の高いものにするための分析ツールです。まずはこちらに取り組んでみてください。


【実施内容】グループワーク|グループA
『SWOT分析の統合セッション』
長井市担当者/小国町担当者/飯豊町担当者/白鷹町担当者

各自治体の公共交通担当者が個人ワークで「SWOT分析」を実施。次にその内容をグループ内で共有するために、参加者ごとに内容を発表するワークショップが行われました。ここからは特にグループAの議論について詳しくレポートしていきます。

長井市

【強み】市内の交通弱者である高齢者の方が基本的には利用されていますので、そういった方々により使い勝手の良いサービスができているのかなと思っています。フラワー長井線の駅が市内に7ヶ所あるので、市外の方やローカル線のファンの方の利用も多いです。

【弱み】市営バスは路線に複数ダイヤで運行してますので、A地点からB地点まで行く際に乗り換えが発生する場合もある。利用者からは一本化した方が楽だという声も多い。バス停までの距離も遠い地域もあります。維持コストが膨大な点も弱み。人口減少の影響で高校生の利用数も少なくなっています。

【機会】デジタル地域通貨「ながいコイン」という仕組みがあり、それを使って市営バスやフラワー長井線に乗ることができます。

【脅威】自動運転の普及にはまだ時間がかかる。フラワー長井線については存続の可否の問題もある。

小国町

【強み】運行事業者間の連絡調整っていうのも比較的スムーズにできています。ある意味地形的に独立しているような地域なので、ある程度地域の意見を集約すればあまり問題なく運行できます。

【弱み】町内の公共交通が本当に乏しいです。バスは地形的に非常に非効率な路線になっている。高齢者が多いのでキャッシュレスなど新しいシステムの導入などはなかなか難しいです。定時定路線バスとデマンドどちらも運行してるが、デマンドの予約については電話1本のみ。アプリの導入という考え方もあるんですが、どうしてもスマホをうまく触れない層の利用者が多いです。

【脅威】小国町は目的地というよりもどこかに行く途中の中継地点的な立地なので、他の自治体にはなんらかの観光資源があるが、うちはそういう拠点があまりないです。独立した立地なので、本来は周辺市町村や隣接する新潟県の自治体とも連携すべきだが、まだそういった地域連携の取り組みはないです。交通業界の担い手不足も深刻で、ここ10年くらいで公共交通が維持できないという話も出てきています。町外への交通は外部機関に頼っている状態なので、これがなくなった時にどうするのかも大きな脅威になります。

飯豊町

【強み】デマンド交通のほほえみカー1本しかなく、飯豊町の地形特性上「ドアツードア方式」で運営しているので高齢者が移動しやすい環境になっています。インバウンドが好調で、観光需要が高まってきています。

【弱み】高齢者が多く人口減少流出も多いために、地区内に商店や医療機関の数が少ないです。以前は路線バスがあったが集落間が遠いので、どうしても路線での運行が合わない地域であることです。飯豊町のデマンド交通は福祉政策としての側面が強いので、観光ニーズに合わせて活用することが難しいです。

【機会】自動運転技術が普及して来れば、慢性的な運転手不足を解決できます。

【脅威】運転手の担い手不足が大きな脅威です。現在のドライバーが高齢者なので、喫緊の課題になっています。あとは災害による鉄道の休止などがあれば、町内の公共交通はかなり厳しい状況になります。

白鷹町

【強み】山形市に近く山交バス1本で山形市に行けるのが一番の町の強みです。また開始して15年経つデマンドタクシーの認知度も高く、指定した場所から乗れることもあり利便性も高いです。

【弱み】民間路線バスの本数が少ないです。高齢者にとってはやっぱりドアツードアのデマンドタクシーのニーズが高くて、あまり民間路線バスを使わないです。

【機会】デジタル化の機運の高まりです。免許証自主返納者の数が右肩上がりで増加しています。ライドシェアの解禁等法改正の緩和の動きが、より活性化していくことを願っています。

【脅威】やはり公共交通の運転手不足と高齢化です。民間事業者さんに撤退されてしまうとその影響は大きいです。山形市内の高校に通う生徒も多いので、そこがなくなると将来的に子育て世代の減少にもつながる可能性があります。


【実施内容】グループワーク
『共通テーマとネクストアクションの策定』

探索型の課題抽出とバックキャストによるブレインストーミング
グループセッションで各自治体の現状分析を共有したあと、コーディネーターの菅野さんファシリテーションにより「特に議論したい共通テーマ」を選定。最後にその課題を解決していくための「ネクストアクション」を策定するために、参加者全員でブレインストーミングを行いました。

【コメンテーター|菅野さま】
ここからは共通テーマを解決していくための議論をしていただきます。ただポイントとしては、解決解決策にこだわりすぎないことです。できるだけバックキャスト思考で未来から逆算して、今やるべきことを考えてみてください。またそのアクションは必ずしも行政発信にこだわる必要もなくて。むしろ福祉系とか社会福祉協議会などと協働する方が効率が良かったりします。何か今日この話し合いから持ち帰ることが生まれれば幸いです。では共通テーマについて議論を始めてください。


【実施内容】共通テーマ策定|グループA
共通テーマ『公共交通についての住民の意識づけ』
長井市担当者/小国町担当者/飯豊町担当者/白鷹町担当者

公共交通をより良く住人に利用していただくために
【自治体A
うちの場合は思ったほどデマンド交通の意識が根付いていないのが課題です。どうやったら意識が変わるのかを考えられたら嬉しいです。

【自治体B
うちはデマンド交通が大赤字なので、そういう観点で議論できればと思います。

【自治体C
うちの場合は、公共交通の乗り方等根本的なところの住民認知度や理解度が低いという点です。結局自家用車の方がいいってなって「公共交通を使うメリットの周知」が課題かなと思ってます。

【自治体A
それでいうとデマンド交通で予約がすっぽかされるとか。住民意識に通じる課題もあります。それではグループAのテーマは「公共交通についての住民への意識づけ」に決めましょう。


【実施内容】ネクストアクションの議論|グループA
『バックキャスト思考で今できることを』
長井市担当者/小国町担当者/飯豊町担当者/白鷹町担当者

【コーディネーター|菅野さま】
ここからは共通テーマを解決していくための議論をしていただきます。ただポイントとしては、解決策にこだわりすぎないことです。できるだけバックキャスト思考で未来から逆算して、今やるべきことを考えてみてください。またそのアクションは必ずしも行政発信にこだわる必要もなくて。むしろ福祉系とか社会福祉協議会などと協働する方が効率が良かったりします。何か今日この話し合いから持ち帰ることが生まれれば幸いです。では共通テーマについて議論を始めてください。

利用者が集まるタッチポイントに出向いて広報する

【自治体A
今回のテーマは「公共交通をしっかり利用していただくための住民の意識づけ」。先ほどの情報共有の中では白鷹町さんが比較的に住民意識が根付いているようでしたが、どういったことをやってきたのか教えてください。

【自治体B
うちのデマンドバスの始まりは平成9年から。それでもいまだに色々ご意見をいただくことがあって、逆にご意見をいただけることで改善ができている部分もあります。実際にデマンドバスを使っている方は固定化されてきますので、実際に利用している方々からのリアルな声が集まっていることは確かです。

【自治体A
今町の取り組みとして交通安全教室を結構開催しているんですけど、そういうタッチポイントに出向いてデマンド交通について説明させていただくのもいいかも、というお話をしてまして。

【自治体B
23年前くらいに大幅に路線を変えた時があったんですが、その時は地区長会議に顔を出しまくって全部に説明しにいくということをしたようです。デマンドバスの乗り方や時刻表が入っている冊子も作って全戸配布したりしてました。ただ、冊子になると見ない方も多いようで、本当に必要な人に渡せる1枚紙のようなチラシがあればいいなと思ってます。あと利用者の平均年齢が77歳ほどということで、ネットでの周知はあまり得策ではないというか。毎月広報にもスケジュールや予約受付制等の情報を掲載しています。


【実施内容】全体発表
『各グループの議論内容を全体で共有』

2つのグループの共通課題とネクストアクションのまとめ
今回は2グループに分かれて議論を進めていたので、コーディネーターである菅野さまのファシリテーションのもと、各グループで議論した「共通テーマ」と「ネクストアクション」を発表し合いました。

グループA共通テーマ「公共交通を利用してもらうための住民周知の課題」
ネクストアクション「適正なタッチポイントで情報発信を続ける」

まずは「住民の意識づけをどう行なっていくのか」を中心に話し合いました。自治体Aではデマンド交通利用者の平均年齢が77歳ということで、デジタル機器やDMなどを利用した情報発信ではユーザーに届かない。なので毎月の広報にデマンド交通についての情報を掲載したり、コミュニティーセンターなど、ユーザーが集まりそうな場所に情報を掲載するなどの工夫をしている。

自治体Bでは交通指導員が交通安全教室の時に、デマンド交通についての説明会を行なっている。あとは社会福祉協議会など、利用者が集まりやすい場所にチラシを制作して掲載している。自治体Cではなかなかそこまでの施策ができていないので、地域おこし協力隊が高齢者向けの地域活動の中で情報を伝えるなどを行なっている。

例えばある自治体では、デマンド交通サービスについてアンケートをとった結果「存在は知っているが利用したことはない」という方が多かった。そこを「利用してみたい」と思っていただける情報や取り組みを、適正な方法で発信し続けることが重要ということでした。


グループB共通テーマ「自治体をまたぐ公共交通での移動課題」
ネクストアクション「乗り継ぎ利用のハードルを下げる」

住民が公共交通を利用して他の町に移動したい需要は、そもそもそういう手段があることをちゃんと住民に伝えないとわからないのではないか。自治体をまたぐ運行については、営業区域や道路運送法の制約というハードルがある。あと、自治体の立場としては「なぜ他の自治体に行くのにうちの町が運行を補助しなければいけないのか?」みたいな問題も出てきます。

公共交通である以上は自治体がネットワークを組んで、乗り継ぎをしながら行きたい場所へ移動していただくのが一番理想ではあると思う。ただ、正直なところ住民利用者の話を聞いてると、乗り物の乗り継ぎ自体に抵抗がある方が多い。乗り継ぎの際に生じる階段の上り下りだったり、隣町の公共交通についてはほぼ見識がなかったり。ということでまずは「乗り継ぎ利用」自体のハードルを下げるところから始めないといけないかなという意見も出ました。

あとはこういった課題の対策については、トップダウンでの進め方が多いですけど、こうやって担当者同士が集まって、現場レベルの話を積み上げていくことが望ましいという話をしていました。


コーディネーターの菅野さまがグループAとグループBの共通テーマやネクストアクションについて解説したところで勉強会は終了。今回も「山形県地域公共交通活性化協議会」の県担当者さまに、置賜エリアのワークショップ全体についてコメントをいただきました。

COMMENTATOR山形県地域公共交通活性化協議会|県担当者さま
これまでも公共交通に関する講演会などで、自治体担当者たちが顔を合わせる機会はありましたが、こうして対面で各地域の課題を話し合うというような場面はほとんどなかったと思います。そうすることで普段担当者一人一人が抱えている悩みだとか、もっとこうできるんじゃないかと想い描いていてもなかなか出来なかったこととか。そういう状況から一歩踏み出すきっかけになるのであれば、開催側としてもすごく嬉しいなと思います。